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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)313号 決定

抗告人 鈴木義男

訴訟代理人 武田松太郎

相手方 徳井キヨ

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告の要旨は末尾記載のとおりであつて、当裁判所はこれについて次の通り判断する。

競売法第三〇条によつて競売法による不動産の競売につき準用される民事訴訟法第六五九条第一項の法意は、なるべく多くの人に競売期日を知らせ、結局競売ができるだけ相当な価格で行われることを期するために、競売期日と公告の日との間に少なくとも十四日の期間を置くことを必要とするというのであり、かつ競売法第二九条第二項、民事訴訟法第六六一条第一項によれば、競売期日の公告は、裁判所の掲示板と不動産所在地の市町村の掲示板との少なくとも二ケ所にしなくてはならないことが明らかであるから、競売期日の前少なくとも十四日の期間を置いてなさるべしとの前記の要件は、そのいずれの公告についても具備さるべきは、当然である。そして、右十四日の期間は、通常の期間計算法にしてたがつて、公告の日の翌日より起算すべきであつて(民法第一三八条、第一四〇条)、とくにこれと異なる計算をなすべき何らの根拠を見出すことができないから、本件不動産競売の昭和三十二年十月二十一日午前十時の競売期日について同年同月七日に足利市役所の掲示場に掲示してされた公告(その事実は記録第四八丁の通知書によつて明らかである。)は、公告と競売との間に存すべき十四日の期間に一日だけ不足し、したがつて前記競売期日は適法にこれを開くことはできなかつたものである。したがつて、適法に右期日が開かれたものとして、最低競売価額を低減して行われた次回の競売手続も亦最低競売価額の定めを誤つた点において違法であつて、もしその期日の競買申出によつて競落許可がされたとすれば、それはとうてい取消を免れないであろう。しかし、その日の競売においても競買の申出がなく、更に競売期日がくり返された結果競買の申出があつた場合においては、これと同一に解することができない。低減された価額のもとにあつてすら競買の申出がなかつた事実によつて、当初の最低価額をもつてしては、もちろん競買の申出をするものがなかつたであろうことが実質的に明らかにされたと言い得るから、たとい前競売期日が違法で開くべからざるものであつたとしても、その違法を是正し、かつ最低競売価額を当初の額に復して、競売手続をやり直すということは、全く意味のないことになるのである。本件についてこれを見るのに、昭和三十二年十月二十一日に開かれた第一回競売期日は前記のように公告に違法があつて開くべからざるものであつたが、最低競売価額を低減して行われた同年十一月二十一日の新競売期日においても競買の申出をするものがなく、更に累次これを低減して、昭和三十三年二月三日と同年三月二十五日とに各競売期日を開いたが、そのいずれにおいても競買の申出をするものがなく、同年五月八日の新期日においてようやく抗告人が競買の申出をしたのであること、本件競売記録に徴して明らかであり、しかも昭和三十二年十一月二十一日以後の手続については、最低競売価額の点のほかに、何らの違法のかどを見出すことができないから、右競買申出にもとづき言い渡された本件競落許可決定には、これを取り消すべき瑕疵はないといわなくてはならない。これと見解を異にし、右競売事件の債務者である相手方の即時抗告につき、再度の考案によつて右競落許可決定を取り消し、抗告人の競落はこれを許さないとした、原決定は失当である。よつて、これを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 内田護文 判事 原増司 判事 入山実)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

本件抗告事件を原裁判所に送付する。

との決定を求める。

抗告の原因

一、宇都宮地方裁判所足利支部は昭和三十三年五月三十日、同裁判所昭和三二年(ケ)第一八号不動産競売事件について左の通り決定した。

主文

原決定を取消す。

本件につき昭和三十三年五月九日鈴木義男は最高価金額の競買申出をしたが右競落はこれを許さない。

理由〈省略〉

右決定は昭和三十三年五月三十一日抗告人に送達された。

二、本件については右主文表示のように抗告人が競買申出をなし昭和三十三年五月九日競落許可の決定があつたことは記録上明らかである。

三、ところが債務者兼所有者徳井キヨより抗告状が提起され原裁判所は再度の考案に基いて抗告を理由ありとし第一項掲記の今回の競落不許の決定がなされたものである。

四、今回の競落を許さないとする決定に引用された徳井キヨの抗告理由は右決定理由中に「昭和三十二年十月二十一日の競売期日を其の月の七日に足利市役所の掲示板に掲示しその儘手続を進行し且競売価額を低減し数回これを繰返して昭和三十三年五月八日抗告人鈴木義男が競落したものである。

しかしながら昭和三十二年十月七日公告同月二十一日なされた競売期日は期間不足、累次の最低競売価額の低減はできないものであるから――云々」と摘示されている。

五、しかしながら右徳井キヨの抗告理由(原裁判所本件の決定理由)は左の諸点により排斥されるべきものである。

(1) 、原裁判所の競売手続中の瑕疵が前記のとおりであつたとしても其の期日における公告は裁判所前の掲示板には相当の期間を存し掲記されていたものであるし市役所前の掲示が期間の計算において一日不足があつたとしても適正な競売手続進行上何等支障を生じた形迹がない。

更に其後数回の競売期日の公告並に価額低減があつたが競買申出人がなかつた。

従つて抗告人が競落した期間には決定理由所掲の瑕疵があつたとしても、それは既に全く治癒されているものであり、競落の効果に影響しないものである。

(2) 、競売期日公告期間一日の不足は所謂期間の計算法によらずともよいので不適法でないとする判例もあるので其趣旨を引用する。

(3) 、広い意味の訴訟経済理念からいつて、

昭和三十二年七月三日競売申立後十ケ月以上を経過し競落許可の決定があり相当の日時と経費等を要した本件競売手続について前記のような理由で、しかも債務者が相当の時期に抗告をなさなかつた過怠を伴うものであるにかかわらず競落を取消され債権者や競落人の権利保護に不満を生ずる結果となることは承服しがたい。右の次第につき本抗告をなし抗告趣旨のような裁判を求める。

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